日本の「忖度外交」が後押しした徴用工判決(アゴラ掲載記事)

メディア掲載

11月29日、徴用工問題に関する2度目の最高裁判決がでた(産経新聞)。これは原告が広島の旧三菱重工の工場などで労働を強いられ被爆したとし、三菱重工を提訴していたものだ。判決は予想どおり三菱重工の敗訴だった。これは、10月30日に韓国の最高裁が新日鉄住金に損害賠償を命じた判決に続く日本企業の敗訴だ。

KBSより:編集部

「徴用工」、「三菱」という2つのワードで思い出すことがある。2015年7月7日に世界遺産登録が決まった「軍艦島(当時軍艦島の労働者は三菱の直轄)」だ。ユネスコの諮問機関は同年5月4日に軍艦島を含む「明治日本の産業革命遺産」の登録を勧告し、登録が確実視されることとなった。しかし、韓国政府は「日本が軍艦島で朝鮮人を強制労働させた過去」を理由に、軍艦島の世界文化遺産登録を阻止する運動を開始した。5月20日には、朴槿恵大統領がユネスコのボコバ事務局長と会談し、登録反対を直接伝えた。

解決に向け6月、岸田外相は『韓国に忖度』し、韓国の「百済歴史遺跡地区」と日本の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を相互支援することで、この問題を解決することにした。しかし韓国は自国の「百済歴史遺跡地区」の登録が採決されると、その翌日にあっさりと合意を反故にし日本の登録に反対した。最終的に日本政府は韓国政府に譲歩し、「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」ことを約束し軍艦島の登録が採決された。

そして日本政府は世界遺産登録の際、徴用工を「forced to work」と自ら書いた。岸田外相は、「forced to workの表現は、強制労働を意味するものではない」と述べたが、韓国はもちろん海外では全くそう受け止めていない。「force」は強いる、余儀なくさせる、の意味で強制という意味に取るのが普通だからである。つまり、国内向けには強制労働ではないと言いながら、forceを使って強制労働を明言し、『韓国に忖度』し譲歩したのである。

同様の『忖度』が同じ年の暮れ、慰安婦問題の日韓合意でも行われる。2015年12月28日、日韓両政府はソウルで外相会談を開き、慰安婦問題を決着させることで合意した。合意文は、「慰安婦問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から日本政府は責任を痛感している。(中略)今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」とある。

問題は「軍の関与」という部分である。この言葉は日本が「日本軍による慰安婦の強制連行」を認めたと、韓国はもちろん海外でも受け止められた。後日国会で中山恭子議員から「軍の関与」の意味について問われた安部総理は、「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が関与した」と、関与とは管理の意味で、強制連行は確認されていないという趣旨の答弁をした。

しかし、海外メディアはこのような国内向けの答弁をわざわざ報道をして日本を擁護することなどしない。本気で否定をするなら、外務省が明確に何度も繰り返し海外に発信すべきだったし、そもそも軍の関与という言葉を使うべきではなかった。日本政府はあえて「軍の関与」という抽象的な言い回しを使って、『韓国に忖度』し対立解消を図ったのだ。

『忖度』の意味は、「他人の心情を推し量って相手に配慮する」ことである。軍艦島や慰安婦問題に対する日本の『忖度外交』は、韓国に日本は押せば引く、無理を通せば道理を引っ込める国だという印象を根付かせてしまった。

そしてさらに忖度は続く。日本政府は2017年1月9日、韓国政府の慰安婦像放置の対抗措置として駐韓大使らを帰国させたが、3ヶ月後に韓国へ帰任させた。岸田外相は帰任理由について、韓国の政権移行期の情報収集、北朝鮮のミサイルに対する邦人保護等の理由を挙げたが、これらはその後すべて解決されている。解決された以上現状に戻す、つまり再び日本に呼び戻すのが筋であるが、相手を『忖度』しそれはしていない。

以上を時系列にすると以下のようになる。

◎2015年6月 韓国に忖度し「百済歴史遺跡地区」の世界遺産登録を支援

・2015年6月 韓国は合意を反故、「明治日本の産業革命遺産」の登録に反対

◎2015年7月 世界遺産登録の際forced to workの表現を使い韓国に忖度

◎2015年12月 安婦問題の日韓合意の際、軍の関与を認める文言を使い韓国に忖度

・2016年9月 韓国の外交部は記者会見で、安倍総理大臣が謝罪の手紙を慰安婦に送ることを追加要求

・2017年1月 慰安婦像放置への対抗措置として、駐韓大使ら日本へ帰国

◎2017年4月 帰国を取りやめ、駐韓大使らを韓国に帰任させ、韓国に忖度

・2018年10月  韓国最高裁が新日鉄住金に賠償命令判決

・2018年10・11月 韓国野党議員が竹島に合計3度上陸

・2018年11月 韓国政府が「和解・癒やし財団」の解散を破棄し日韓合意を事実上破棄

・2018年11月 韓国最高裁が三菱重工に賠償命令判決

こうしてみてみると日本の忖度(◎印)が見事に裏目に出ていることがわかる。そして韓国に対し日本が忖度し続けた結果が、今回の判決を含む今日の両国の関係に至ったとも言える。外交は平たく言えば「自国の利益を相手国におしつける」ことに他ならない。日本に古くからある「奥ゆかしさ」や「謙譲の美徳」、ましてや「忖度」などは、およそ世界の外交では通用しない。

イギリスから彦島の租借を迫られた際、延々と古事記を諳んじて要求を突っぱねた高杉晋作や、国力に大差があったロシアに対しバルカン半島で紛争が勃発していた弱みをつき、千島樺太交換の対等条約を結んだ榎本武揚のように、今後、日本政府が確固たる信念の元に外交を続けていく以外に事態を打開する道はない。

徴用工関係の訴訟は他にも12件あり、今後も同様の判決が続くだろう。日本は今回の判決も、「日韓基本協定で最終的に解決済みの立場」を取っており、河野外相は、「断じて受け入れられない。国際裁判や対抗措置も踏まえあらゆる選択肢を視野に入れ、毅然とした対応を講ずる」という談話を発表したが、はたしてどうか。

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