平成の時代を跋扈し続けた怪物「憲法9条」(下)(アゴラ掲載記事)

メディア掲載

5. 平成に現れた「怪物を退治しようとする男」

怪物は退治をしたくない勢力(主に野党とメディア)を味方につけて、その勢力を拡大していった。しかし、一人の男が現れた、安倍晋三という男だ。祖父はあの岸信介。安倍は2006年(平成18年)9月に第一次安倍政権では、憲法改正までは届かず職を辞したが、2012年(平成24年)12月に第二次安倍政権として復帰した。そして、遅々としてすすまない憲法論議を促進するために、2017年(平成29年)5月3日、ビデオメッセージで、新憲法施行年を2020年としたいと表明した。

民間憲法臨調動画より

改憲案の具体的内容として、現憲法の9条1項及び2項を堅持した上で自衛隊の根拠規定の追加等への意向を表明した。安倍は「自衛隊は必要最小限度の実力組織であり、憲法における軍隊ではないという考え方を取っているが、国際法的には軍隊であるという立場をとっていること。また、イージス艦を数隻も所有し、5兆円以上の防衛費がある自衛隊が軍隊ではないということは、国際社会的に非常識である」と、これらの矛盾をなくすべきだと訴えた。そして、自衛隊の違憲論に終止符をうつべきだとした。

憲法改正法案が成立するには、衆院の審査会に提出され本会議で趣旨説明と質疑を行った後、審査会で本格的な審議に入る必要がある。ここで過半数の賛成で可決し、さらに衆議院本会議で総議員の3分の2以上で可決。参議院でも審査会の審議、採決、本会議採決と衆院と同じ手続きを踏んで改正案が成立。その後国民投票となり、成立には国民の過半数の賛成と険しいハードルが待っている。

しかし、その憲法改正の議論は『野党の反対』により、本国会でもその「入り口の入り口」である衆議院憲法審査会での議論さえできていない(産経新聞)。

過去に何度も2/3の壁に阻まれ退治ができなかったこの「怪物」を援護する野党やメディアは、今夏の参議院選挙までの時間切れを狙っている。参議院は全議席242、その2/3は162議席。自民125、公明25に11議席の日本維新を合わせて161。希望の党や改憲に前向きな無所属議員らをかき集めてやっと3分の2を確保できるという、ギリギリの状況にある。参議院選挙で与党がその数を減らせば、参議院における2/3議席は崩れる。

6.怪物退治への3分の2の壁

よって怪物を退治しようとするものに、この3分の2という壁が大きく立ちはだかり、その道のりは極めて厳しい。過去に安倍総理は、「国民の手に憲法改正を」といって、2/3を過半数に改めようと96条の改正から始めようとしたが、そうそうに頓挫した。本通常国会は6月26日までだが、この国会で発議できないと参議院に突入する。

反対する野党やメディアがその拠り所にしているのが民意だ。NHKが2018年4月13日に行った世論調査によると、憲法改正が必要(29%)、必要ない(27%)とほぼ拮抗している。これを見る限りでは国民が憲法改正を是非やってほしいという結果にはなっていない。

4月1日に新元号が発表され、5月からは令和元年になる。安倍総理が成立を目指す2020年は令和2年であり、怪物は誕生後、昭和の41年間だけでなく、平成の30年間も退治されずに生き延びたことになる。そして、もしも今回の機会を逃せば、昭和の鳩山、岸、平成の安倍を蹴散らしただけでなく、令和の時代も我が物顔で闊歩(かっぽ)することになるだろう。

岸信介は「選挙でもって3分の2の議席を取れるなんて考えていなかったですよ。そりゃ、取れないもの、実際」と述べているが、「選挙で国民に理解を求め国民を啓蒙するということは、もちろん考えていましたよ」とも言っている(*)。安倍は岸の言葉どおり、国民に理解を求めるため、衆参同時選挙に打って出るのだろうか。そして、世論を味方につけることができるのだろうか。いずれにしても怪物退治への道は果てしなく遠い。

(*)「岸信介証言禄」原彬久氏著(毎日新聞社)より引用。

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