「東電の謎ツイート」と危機管理力(アゴラ掲載記事)

メディア掲載

首都圏を直撃した台風15号は千葉県を中心に甚大な被害を及ぼしている。その最たるものが千葉県を中心に発生した停電である。9月11日8時の段階で、神奈川県は4千戸、千葉県は43万3千戸で停電が続き、千葉県での被害は43市区町村に及んでいる。

そんな中、送電線、変電所などの送配電網を維持・運用を担当している東京電力パワーグリッド(以下東電PG)が謎のツイート(誤報)を発信した。9月10日の午後「<台風15号の影響による東京電力サービスエリア内の停電状況>と題し、最大で93万軒が停電しておりましたが、全力で復旧作業を行った結果、本日中に約7,400軒程度まで縮小すると見込んでおります。引き続き早期復旧に向けて対応してまいります」と公式ツイッターに書き込んだ(下記画像)。

東電ツイッターより(現在は削除)

このツイートを発信した正確な時間は明らかではないが、筆者がこのツイートを見たのは同日の13時20分頃だった。自宅が停電していたので、冷房の効く隣町の映画館にでも行こうと思い、上映前にツイートを見たので時間を覚えていた。このツイートを見た時、にわかに信じ難かった。なぜなら、同日の10時に出したプレスリリースでは62万5千軒がまだ停電していたからだ。もし7,400軒まで復旧するならば、停電の99%が復旧することになり、完全復旧に近い状況になるからだ。

東電PGは復旧状況を1時間おきにツイートしていたが、その数は10日7時時点で635,000軒、8時時点で631,500軒、9時時点で626,700軒、10時時点で625,100軒、11時時点で618,500軒、12時時点で614,200軒となっていた。

これを平均すると時間平均復旧数は、4,160軒。単純計算すれば10日中に7,400軒まで復旧するためには、時間平均約51,000軒と10倍以上の効率で復旧しなければならないことになる。

一体全体どんな魔法を使ったら、そんなことが可能なのかと考えたが、同時にこうも思った。発信したのは公式のツイッターだ。当日は季節外れの高気温。被災している方々が、熱中症の恐れに耐え、場所によっては水も携帯もつながらない状況の中、一日千秋の思いで通電を待っているのを東電PGが知らないはずがない。だからいい加減な情報を流すはずがないと。

折しも世耕経産大臣が自身のツイッターで「東京電力に対し、復旧見込みの情報提供をツイッター等により、丁寧に迅速に行うよう指示した」とツイートしていたこともあった。

ただ、一抹の不安と違和感から停電になっている実家にはこの情報を送らずにいた。案の定、2時間後に映画を見終わって再度東電PGのツイートを見た時には、ツイートは消えていた。

代わりにあったのは、「先ほどお伝えした、本日の復旧見込みの軒数についましては改めて精査し、別途お知らせいたします。申し訳ございません」とのツイートだった。

東京電力ホールディングス 株式会社

@OfficialTEPCO

■お知らせ■
<台風15号の影響による東京電力のサービスエリア内の停電状況>
先ほどお伝えした、本日中の復旧見込みの軒数につきましては改めて精査し、別途お知らせいたします。
申し訳ございません。

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実は東電は1日前の9日15時半に行った最初の記者会見でも同じ間違いをしていた。会見で東電PGの技管はこう言っていた。

栃木県、埼玉県は現時点で全復旧している。東京都においても、本日中に全復旧する見通しである。一方、千葉県南部、神奈川県南部、茨城県沿岸部、静岡県東伊豆エリアにおいては、本日中に復旧する見通しは難しい状況である。

これを素直に解すれば、「名指しされた方面以外の同県エリア」は本日中、つまり9日に復旧すると受け取るのが普通である。事実、記者もそのように受け取り、質問も9日中に復旧しないとされたエリアのことに集中した。

しかし、この情報は誤っていた。例えば東京都島嶼部エリアの復旧は10日ずれ込み、千葉県北部の約7万戸は11日11時時点でも復旧していない。そして謎の7,400軒のツイートの後も誤報は続く。その後「改めて精査する」としていた復旧見込み件数は、10日の18時55分に「本日17時時点で約58万軒が停電しておりましたが、全力で復旧作業を進め、今夜中に約12万軒まで縮小する見込みとなりました」とツイートした。

東京電力ホールディングス 株式会社

@OfficialTEPCO

■お知らせ■
<台風15号の影響による東京電力サービスエリア内の停電状況>
本日午後5時時点で約58万軒が停電しておりましたが、全力で復旧作業を進め、今夜中に約12万軒まで縮小する見込みとなりました。
引き続き、早期復旧に向けて対応し、残りの約12万軒についても明日中の復旧を目指します。

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しかし、この発表も誤りで、10日中に復旧されず残ったのは、12万軒の約4.5倍の53万軒だった。この誤りについて東電PG社長は11日朝8時の記者会見で、雷による作業の中断、現場作業を進める中で判明した作業量の増加、夜間作業に伴う想像以上の作業効率の低下の3点を挙げ、見込みの甘さを認めている。

作業の目算が誤ることはあるが、だからと言って言い訳にはならない。作業状況や効率を慎重に判断して数字を発表すべきで、軽々に見込み数を出すべきではないからだ。平時なら数字の誤りは訂正すれば良い話しだが、災害時にはそうはいかない。出した情報を信じて病院は今後の対応を決め、被災者は避難場所を決めたり、食料の確保をしたりするからだ。

結局11日16時現在も、428,300軒停電は解消されていない。危機管理の常道は、情報を迅速に正確に出して行くことだ。3.11を経験した東電だが、残念ながらその経験が活かされてはいなかった。それにしても、あの謎の7,400軒のツイートは何だったのか、色々な意味で理由が知りたい。

(被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。また、昼夜を分かたず懸命に復旧活動に尽力されている皆様にお礼申し上げます。)