安倍前総理の靖国神社参拝の持つ意味

メディア掲載

9月19日、安倍前総理が靖国神社に参拝したことをツイッターで明らかにした(NHK)。この参拝は第二次安倍政権の発足からちょうど1年の節目である2013年12月26日以来の参拝となり、保守層からは称賛や喜ぶ声が多く寄せられた。しかし、筆者はこの参拝は必ずしもプラスの要素ばかりではなく、むしろマイナスの要素を多く含んでいるように思う。

安倍前総理は16日に内閣を総辞職し、総理大臣の職を辞した。そしてその3日後に靖国参拝したことに大きな意味を持つと考えるからだ。

1.靖国神社参拝に反対する国へのメッセージ

これまで中国、韓国は総理大臣が靖国神社に参拝するたびに激しい批判を繰り返し、外交問題にしてきた。安倍前総理が2013年に現役総理大臣として参拝した際も、中国は批判をし、同盟国のアメリカからも失望したと批判され、その後安倍前総理は現役のうちに参拝することはできなかった。

今年の8月15日には小泉進次郎氏ら4閣僚が参拝したが、安倍前総理は玉串料を奉納するにとどめた。またこの日、安倍前総理は、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝している。千鳥ヶ淵戦没者墓苑から靖国神社までの距離は550m、徒歩約7分なので、スケジュール上の都合、時間的余裕がなくて参拝に行けなかったわけではなく、中国、韓国に配慮をしたとみるのが普通だ。

今回、安倍前総理が19日に参拝したことにより、「現役総理大臣であった時に他国に批判をされたのでそれ以降は参拝せず、総理を辞めたあとで参拝した」というメッセージを他国に送ったことになるように思う。

2.後任の総理大臣へのメッセージ

安倍前総理は就任後の選挙で5戦全勝した。政権を担当している間、野党やメディアの批判を受けて支持率は一時期下がったことはあるが、おしなべて盤石で、首相の在職日数としては、第1次政権を含む通算で3188日、第2次政権以降の連続で2822日と、いずれも憲政史上最長を記録した。

その安倍前総理が1度参拝し批判を浴びた後1度も参拝できなかったことは、次に続く総理大臣へ影響を与えると思う。第2次政権の7年8ヶ月にも及ぶ磐石な基盤である総理大臣でも参拝できなかったのだから、菅総理やその後の総理も参拝しづらい、しなくても良いという雰囲気が作り出されてしまったように思う。

今回の安倍前総理の靖国神社参拝は参拝自体は素晴らしいことだと思うが、どうせなら、その3日前の16日に行っていただきたかった。現役総理大臣と辞めた後ではその意味合いが全く違う。

筆者は8月15日や例大祭に、総理大臣は絶対に参拝しなければならないとは思わない。それより肝心なのはいつでも行きたいと思う時に行けることだと思う。総理大臣だけでなく閣僚、議員、公人が他国の干渉など無視して、行きたいと思う時に行ける環境を作ることが大事だと思う。しかし、今回の参拝でそれはさらに難しくなってしまったように思えてならない。

安倍前総理の後任と言われながら、総裁選で敗れた岸田氏は今回の参拝について、

これは心の問題だから、少なくとも外交問題化するべき話ではないと思っている。政府においても外務省においても、国際社会に対して心の問題であるということ、国際問題化させるものではないということを丁寧にしっかりと説明をする努力は大事なのではないか。

と語った(朝日新聞)。正論だと思う。もし総理になられたら、ぜひこの言葉を実践していただきたいと思う。

(画像:安倍前総理ツイッター)