1. 韓国海軍の自衛隊機へのレーダー照射
12月20日、自衛隊の哨戒機が韓国海軍からレーダー照射を受けた。事件から6日経つが、日韓の主張が食い違い一向に収まる気配を見せない。事件は20日の石川県能登半島沖の日本海で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射したことに端を発する。火器管制用レーダーはミサイルや火砲を発射する際、目標の距離や針路、速力、高度などを正確に捕捉し自動追尾するロックオンに用いる。「発射ボタンを押せば攻撃可能な状態」(産経新聞)であり、銃でいえば引き金に手をかけた状態であるとも言われている。
2. 今回の事案の真の問題点
この件に関し韓国の言い分は当初の発言から一転する。22日には韓国側が故意に狙ったものではないと説明したと朝鮮日報が報じたが、24日になると韓国軍合同参謀本部幹部が記者会見で、哨戒機に向けた「一切の電波放射はなかった」と主張しはじめた。このような韓国のもの言いについては措(お)くとして、この事案で韓国から日本に突きつけられた真の問題点、そもそも「自衛隊はこの事案で法的に反撃が可能なのか」を考えてみたい。
3. 自衛隊側は反撃することが法的に可能か
防衛省幹部はこの点について、「米軍なら敵対行為とみなし即座に撃沈させてもおかしくない」と語ったとされる(産経新聞)。この発言は裏を返せば、(米軍にはできても)自衛隊にはできないということを示している。
実は過去にも同様のレーダー照射事件が起きている。2013年1月19日東シナ海で中国人民解放軍海軍のフリゲート艦が、海上自衛隊の護衛艦「おおなみ」搭載の哨戒ヘリコプターに向けて火器管制レーダーを照射、また、同年1月30日同海域において中国のフリゲート艦が、海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に向けて火器管制レーダーを照射した。中国側は複数の中国軍幹部が攻撃用の射撃管制レーダーを艦長の判断で照射したことを認めたが、中国国防部はレーダー照射を否定している。
この件について、元防衛相の石破茂氏は著書『日本を、取り戻す。憲法を、取り戻す。』(PHP研究所)の中で、
「中国軍による我が国海上自衛隊の艦船や航空機に対する火器管制レーダー照射事案は、ロックオンと呼ばれ極めて危険な軍事的暴挙」
としたうえで、
「こうした行動に対しては、自衛隊が武器等防護のための武器使用規定(自衛隊法95条)を根拠に警告射撃等を行うことも、法理論上排除されない」
と指摘し、反撃行為が可能であるとの見解を示している。
自衛隊法84条では、
「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、領空侵犯機を着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるために必要な措置を講じさせることができる」
としている。しかし、『平成30年版防衛白書』には、「武器の使用について明文の規定はないが、「必要な措置」の中に含まれると解される」、との注釈がついている。つまりあくまでも『解釈としてできる』としている。
一方、産経新聞は2016年5月3日、
「相手が警告を無視して領空を自由に飛び回っても、攻撃されない限り空自機は退去を呼びかけるだけだ。相手からミサイルや機関砲を撃たれて初めて正当防衛や緊急避難で反撃できるが、編隊を組む別の空自機は手出しができない。爆弾を装着した無人機が領空に侵入しても、攻撃を仕掛けてこない限りは、指をくわえて見ていることになる」
と、憲法9条1項の「武力による威嚇又は武力の行使の放棄」の観点から、「相手にミサイル等を撃たれてからでないと、領空侵犯機を撃つことはできない」との見解を示している。
4. 根源は憲法9条
「自衛隊法95条」により元防衛相の石破氏は可能だと言い、「自衛隊法84条及び防衛白書」では領空侵犯時には解釈で可能だと言い、保守系のメディアとされる産経新聞は、「憲法9条」に言及し領空侵犯時でさえ実際に撃たれないと反撃できないとしている。
こうして当事者、識者、メディアの意見が分かれ、世論としても見解が統一されておらず、法的にクリアになっていない状況の中、レーダー照射されたことで反撃することは、自衛隊としてあまりにリスクが大きすぎる。もしそうなったら、韓国はもとより国内的に大きな議論となり内閣の存否まで問われることになる。このことが、自衛隊幹部の「米軍なら撃沈できて(日本にはできない)」の真意ではないか。
いずれにしても、現場自衛官の命を的にさせ、負担を強いている現状は変えなければならず、その意味でも「一番の根源、ことの本質となる憲法改正(特に9条)」の議論が待たれるが、11月29日の国会会期中に開かれた衆議院憲法審査会を野党は欠席し、審議はされていない状況である。